ARCHIVE 02
『V10との決別』は敗北ではない。ランボルギーニ・テメラリオが選んだ10,000回転という狂気と、その真意
2014–2024 / 2024–
HERITAGE

『V10との決別』は敗北ではない。ランボルギーニ・テメラリオが選んだ10,000回転という狂気と、その真意

V10を捨てたのではない。V10を超えるために破壊した——テメラリオの10,000rpm V8ハイブリッドが示す“必然”。

V10の終焉と、新世代“猛牛”の技術的狂気。

PILLAR

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CHAPTER 01

序章:終わりの始まり、そして新たな暴君の誕生

モントレーで公開されたテメラリオは、V10の終焉という“喪失”の上に、10,000rpmという“狂気”を提示した。

2024年、モントレー・カー・ウィーク。 カリフォルニアの眩しい日差しの下でアンベールされた一台の車が、自動車界に激震を走らせた。 ランボルギーニ・テメラリオ。 この名前が意味する「向こう見ず」「無鉄砲」という言葉通り、この車はあまりにも大胆で、残酷な決断の上に成り立っていた。 それは、V10自然吸気エンジンの廃止だ。 ガヤルドからウラカンへと受け継がれ、ランボルギーニの心臓として愛された5.2リッターV10。 あの鼓膜を突き破るような高音と、剃刀のように鋭いレスポンスは、もはやブランドのアイデンティティそのものだった。 多くのファンがこう嘆いたはずだ。 「環境規制には勝てなかったのか」「ついにランボも、牙を抜かれたダウンサイジングに走るのか」と。 だが、結論から言おう。 その嘆きは、テメラリオのスペックシートを見た瞬間に吹き飛ぶことになる。 彼らはV10を捨てたのではない。 V10では到達できない領域に行くために、あえて破壊したのだ。 その証拠が、量産車としては正気の沙汰とは思えないレッドゾーン10,000rpmという数字である。 本稿では、この新たな猛牛が隠し持つ技術的狂気と、その裏にあるランボルギーニの執念を、余すことなく解剖していく。

CHAPTER 02

第1章:心臓部:なぜV10の改良ではなく、10,000回転V8だったのか

V10の限界の先へ行くために、専用設計の4.0L V8ツインターボ(L411)をゼロから開発。高回転への執念が10,000rpmを現実にした。

まず疑問に思うのは、「V10をハイブリッド化すれば良かったのではないか?」という点だ。 しかし、ランボルギーニの答えはNOだった。 V10は構造上、これ以上の高回転化も、パワーアップも限界に達していたからだ。 彼らが目指したのは、V10を超える感情だ。 そのためにゼロから設計されたのが、4.0リッターV8ツインターボエンジン(コードネーム:L4 11)。 ウルスなどのVWグループ共用エンジンとはネジ一本に至るまで別物の、完全な専用設計ユニットである。

ダウンサイジングではない、高回転化への執念

通常のターボエンジンは、低回転トルク重視で6,000〜7,000回転で頭打ちになる。 しかし、それではV10の突き抜けるような快感は失われてしまう。 「V10を捨てる以上、それ以下のエンジンは許されない」 その意地が、量産ターボエンジン未踏の10,000rpmというスペックを実現させた。

  • チタン製コネクティングロッド:V10時代よりさらに軽量化し、慣性重量を極限まで削ぎ落とす。
  • 指紋のようなDLCコーティング:レーシングカー同等の技術で、200barもの燃焼圧に耐える。
  • フラットプレーン・クランクシャフト:V8特有のドロドロとした低音を排除し、振動と引き換えに鋭いレスポンスと高周波サウンドを手に入れるための選択。

このエンジンは、規制に合わせて仕方なく小さくしたのではない。 V10という殻を破り、リッター200馬力という未知の領域へ踏み込むために必要だった進化なのだ。 単体で800CV。 この時点で、かつての最強モデルであるウラカン・ペルフォルマンテをエンジンの馬力だけで凌駕しているのである。

CHAPTER 03

第2章:ハイブリッドの必然性:V10の即答性を超えるために

ターボラグという物理の壁を、3モーターがトルクフィルで埋める。レスポンスはV10以上へ、制御は“魔法”の領域へ。

V10エンジン最大の武器、それはアクセル操作に対するミリ単位のレスポンス(即答性)だった。 対して、今回採用したような巨大なターボエンジンには、どうしてもターボラグ(遅れ)という物理的な壁が立ちはだかる。 普通なら、ここで「ターボだから仕方ない」と妥協するところだ。 しかし、ランボルギーニはそれを許さなかった。 そこで投入されたのが、3つの電気モーターによるハイブリッドシステムだ。

トルクフィルが消したV10への未練

彼らはモーターを燃費のためではなく、隙間埋めに使った。 ドライバーがアクセルを踏んだ瞬間、ターボが過給圧を高めるまでのコンマ数秒の空白を、モーターが瞬時に最大トルクで埋める。 これをトルクフィルと呼ぶ。 結果、テメラリオはV10以上の鋭いレスポンスとターボの爆発的なパワーの両方を手に入れた。 アイドリングから10,000rpmまで、一切の淀みなく加速Gが続く感覚。 「V10を辞めて正解だった」とドライバーに認めさせるには、このハイブリッドシステムによるドーピングが絶対条件だったのだ。

誰でもヒーローになれるドリフトモード

さらに、フロントに独立した2基のモーターを配置したことで、駆動力制御は魔法の領域に入った。 特筆すべきはドリフトモードの搭載だ。 ダイヤル一つで、このシステムはトルクベクタリングを攻撃的に変化させる。 後輪をスライドさせながら、前輪が絶妙な力加減で車体を引っ張り、ドライバーが意図したラインに乗せていく。 V10時代のドリフトがドライバーの腕力頼みだったのに対し、テメラリオは電子の頭脳がドライバーの未熟さをカバーし、誰もがプロのようなスライドコントロールを楽しめる。 これもまた、V10を捨てたからこそ得られた新しい快楽だ。

CHAPTER 04

第3章:トランスミッションの革命:バックギアを捨てた理由

8速DCTからリバースギアを排し、後退はモーターに任せる。部品点数とスペースを削り、ハイブリッドの重量増を合理的に相殺する。

エンジンの後ろに控える変速機にも、V10時代との決別が色濃く出ている。 新開発の8速デュアルクラッチ・トランスミッション(DCT)だ。 ウラカン時代の7速DCTよりも多段化されているにも関わらず、このユニットは驚くほどコンパクトで軽い。 なぜか? 信じられないかもしれないが、この車には物理的なリバース(後退)ギアが存在しないのだ。 「では、どうやってバックするのか?」 答えはシンプルだ。 さきほど説明した電気モーターを逆回転させるのである。 前進するためのギアしか持たないトランスミッション。 バックはモーターに任せる。 この割り切りによってギアボックス内の部品点数を劇的に減らし、生まれたスペースと重量の余裕を、バッテリーやリアディフューザーの大型化に回したのだ。 兄貴分であるレヴエルト譲りのこの技術は、ハイブリッド化による重量増を相殺するための、極めて合理的かつ執念じみた策である。 「走りに不要な鉄の塊は積まない」。 その哲学はここでも徹底されている。

CHAPTER 05

第4章:シャシーの革命:電動化の重さを帳消しにする骨格

オールアルミスペースフレームで部品点数を削減し、ねじり剛性を向上。重量増の宿命に対し、骨格そのものを再発明で迎え撃つ。

V10からV8ハイブリッドへの移行で、最も懸念されたのが重量増だ。 バッテリーとモーターを積めば、車は重くなる。 重くなれば、ウラカンのような軽快なハンドリングは死ぬ。 このジレンマを解決するために、彼らは車の骨格(シャシー)自体を再発明する必要があった。 そこで採用されたのが、新開発のオールアルミニウム製スペースフレームだ。

カーボンを捨ててでも得たかった剛性

ライバルたちがカーボンモノコックを採用する中、なぜアルミなのか? 新開発のフレームは、特殊な押出成形材を使用することで、ウラカン比で部品点数を50%削減。 その結果、ハイブリッド機器を積みながらも、ねじり剛性はウラカンから25%も向上した。 「重くなったなら、それ以上に車体を強靭にすればいい」 この発想の転換により、テメラリオは重量増を感じさせない、むしろウラカン以上にソリッドな乗り味を実現している。 この新しい骨格もまた、ハイブリッド化という選択が生んだ副産物と言えるだろう。

CHAPTER 06

第5章:サウンドと軽量化:V10の亡霊との戦い

“本物”の振動にこだわり、音をキャビンへ伝える。さらにAlleggeritaで軽さとダウンフォースを取り戻し、ピュアスポーツへ変貌する。

V8への移行で最もファンが恐れたこと。 それは音の劣化だ。 スピーカーから人工的な音を流すEVのようなギミックを、ランボルギーニは断固拒否した。 彼らがこだわったのは本物の振動だ。 エンジンからキャビンに向けて、音響を伝えるための専用パイプやパネルを配置。 クランクシャフトの回転、吸気音、排気の脈動といった機械的なノイズを、あえて増幅してドライバーの背骨に伝える設計になっている。 高回転域で炸裂するそのサウンドは、V10のソプラノボイスとは異なる、野太く暴力的なバリトンボイスだ。

Alleggerita(アレジェリータ)という免罪符

それでも、「やはり物理的に軽くないとランボではない」という生粋のファンのために、テメラリオには隠し玉が用意されている。 それがAlleggerita(軽量化)パッケージだ。 これは、ハイブリッド化で失われた軽さを、執念で取り戻すためのオプションである。

  • CFRP製ホイール
  • チタン製マフラー
  • カーボン製エアロパーツ

これらを装着することで車重は25kg削ぎ落とされ、ダウンフォースは158%増大する。 標準モデルが進化したGTだとしたら、アレジェリータを纏ったテメラリオは、かつてのウラカン・ペルフォルマンテを彷彿とさせるピュアスポーツへと変貌する。 「V10のようなヒリヒリする感覚が欲しいなら、これを選べ」。 メーカーからのそんなメッセージが聞こえてくるようだ。

CHAPTER 07

第6章:居住性の改善:V10時代の我慢からの解放

パッケージングを全面刷新し、ヘッドルームとレッグルームを拡大。“速いから我慢”ではない、新世代のランボルギーニを提示する。

最後に、エンジンとは無関係に見える車内空間の話をしよう。 実はここにも、新世代への移行の恩恵がある。 ウラカン時代のV10オーナー共通の悩み、それは狭さだった。 ヘルメットを被れば天井に頭が当たり、長時間のドライブは苦行に近い。 「速い車だから我慢しろ」という時代は終わった。 テメラリオは、エンジンとシャシーの刷新に合わせてパッケージングをゼロから見直し、ヘッドルームを34mm、レッグルームを46mm拡大した。 たった数センチだが、これにより身長200cmのドライバーがヘルメットを被ってサーキットを攻められる車になった。 V10という象徴を捨てる代わりに、ランボルギーニは速さ、音、快適性のすべてにおいて、過去の自分たちを否定し、超えてみせたのだ。

CHAPTER 08

結び:家電化する自動車界への抵抗

ハイブリッドを燃費ではなく興奮のために使い、10,000rpmを合法的に公道へ解き放つ。テメラリオは“車はまだ夢を見せられる”という宣言だ。

テメラリオの登場は、自動車史において何を意味するのか。 昨今、自動車業界は急速にBEV(電気自動車)へと舵を切り、車は徐々に情熱の対象から、静かで効率的な移動する家電へと姿を変えつつある。 だが、ランボルギーニはテメラリオで、その流れに強烈なアンチテーゼを突きつけた。 彼らが証明したのは、環境規制への適合は、必ずしもエンジンの死を意味しないという事実だ。 ハイブリッド技術を燃費のためではなく、V10を超える興奮を生み出すために使い、10,000回転という狂気的なエンジンを合法的に公道へ解き放つ。 V10を失ったことは、時代の変化かもしれない。 しかし、テメラリオがいる限り、内燃機関の火が消えることはない。 この車は、ただ速いだけのスーパーカーではない。 「車はまだ、夢を見させてくれる乗り物だ」ということを、世界中に再確認させるための記念碑なのである。

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